問題例(中高生のための現代数学クラス)


1 一次分数変換

双曲幾何や射影幾何、あるいは保型形式や整数論など多くの分野で重要な一次分数変換について調べよう。

定義 1.1.
\(a\,d-b\,c\ne0\) である複素数 \(a,\,b,\,c,\,d\)にたいし、以下で定まる写像を一次分数変換という。

\(\displaystyle\Phi(z) = \frac{a\,z+b}{c\,z+d}\)

問題 1.2.
平行移動 \(\Phi(z) = z+\alpha\) や拡大縮小 \(\Phi(z) = \beta\,z\) が一次分数変換であることを確かめよ。

問題 1.3.
具体的に \(a,\,b,\,c,\,d\) の値を定めることにより一次分数変換の例を作ろう。それらが複素数平面のどのような変換を定めるかを観察しよう。

複素数平面とリーマン球面について。球面 \(S^2\) を x2 +y2 +z2 = 1 で定まる \(\mathbb{R}^3\) 内の曲面とする。複素数全体の集合 \(\mathbb{C}\) に「無限遠点 \(\infty\)」を付け加えた集合 \(\mathbb{C}\cup\{\infty\}\) を考える。これは、以下の方法で球面 \(S^2\) とみなすことができる。\(N\in S^2\) を座標が \((0,\,0,\,1)\) で定まる点とする。立体射影 \(\pi:S^2\setminus\{N\}\to\mathbb{C}\) を、球面上の点 \(P\) に対し \(\pi(P)\) が \(P\) と \(N\) を結ぶ線分と、平面 \(z=0\) の交点とすることで定める。この平面を複素数平面とみなす。

問題 1.4.
\(P\in S^2\setminus\{N\}\) の座標を \((x,\,y,\,z)\) として、\(\pi(P)\) がどのような複素数になるかを求めよ。
リーマン球面を考えることで、一次分数変換がきちんと定義される。

\(\displaystyle\Phi(z) = \frac{a\,z+b}{c\,z+d}\)>

において分母が \(0\) の場合には \(\infty\) に移ると考えることで、\(\Phi:S^2\to S^2\) が定まる。
一次分数変換の合成と行列の掛け算を比べよう。

問題 1.5.
\(\displaystyle\Phi_1(z) = \frac{a_1\,z+b_1}{c_1\,z+d_1},\,\Phi_2(z) = \frac{a_2\,z+b_2}{c_2\,z+d_2}\) の合成 \(\Phi_2\circ\Phi_1\) を計算せよ。

円円対応。一次分数変換により、複素平面の円(または直線)が円(または直線)に移ることを確かめよう。
複素平面における円は、中心 \(z_0\) で半径 \(r\) のとき、

\(|z-z_0|=r\)

と表すことができる。また、原点を通らない直線は \(z_0\,z+\overline{z_0\,z}=1\) と表すことができ、原点を通る直線は \(z_0\,z+\overline{z_0\,z}=0\) と表すことができる。

問題 1.6.
行列 \(\left(\begin{array}{cc}a&b\cr c&d\cr\end{array}\right)\) に対し、\(a\ne0,\,a\,d-b\,c\ne0\) とすると

\(\left(\begin{array}{cc}a&b\cr c&d\cr\end{array}\right)= \left(\begin{array}{cc}1&0\cr\alpha&1\cr\end{array}\right) \left(\begin{array}{cc}\beta&0\cr0&\gamma\cr\end{array}\right) \left(\begin{array}{cc}1&\delta\cr0&1\cr\end{array}\right) \)

となる \(\alpha,\,\beta,\,\gamma,\,\delta\) が存在することを示せ。

問題 1.7.
\(z_1,\,z_2,\,z_3\) を相異なる複素数(または \(\infty\) )とする。 \(\Phi(z_1)=0,\,\Phi(z_2)=1,\,\Phi(z_3)=\infty\) となる一次分数変換 \(\Phi\) がただ一つ存在することを示せ。

問題 1.8.
相異なる複素数の三つ組 \(z_1,\,z_2,\,z_3\) および \(w_1,\,w_2,\,w_3\) について、\(\Phi(z_i)=w_i\) となる一次分数変換がただ一つ存在することを示せ。

定義 1.9.
相異なる複素数 \(z_1,\,z_2,\,z_3,\,z_4\) に対し、その複比を

\(\displaystyle[z_1,\,z_2,\,z_3,\,z_4]=\frac{z_1-z_3}{z_2-z_3}\,\frac{z_2-z_4}{z_1-z_4}\)

と定める。

問題 1.10.
\(z_1,\,z_2,\,z_3,\,z_4\) を適当に定め、それらの複比を計算してみよう。

問題 1.11.
任意の一次分数変換 \(\Phi\)に対し、

\([z_1,\,z_2,\,z_3,\,z_4]= [\Phi(z_1),\,\Phi(z_2),\,\Phi(z_3),\,\Phi(z_4)] \)

が成り立つことを示せ。

問題 1.12.
相異なる複素数 \(z_1,\,z_2,\,z_3,\,z_4\) および相異なる複素数 \(w_1,\,w_2,\,w_3,\,w_4\) にたいし、\([z_1,\,z_2,\,z_3,\,z_4]=[w_1,\,w_2,\,w_3,\,w_4]\) ならば、\(\Phi(z_i)=w_i\) となる一次分数変換\(\Phi\) が存在することを証明せよ。

問題 1.13.
相異なる複素数 \(z_1,\,z_2,\,z_3,\,z_4\) に対し、その複比 \([z_1,\,z_2,\,z_3,\,z_4]\) が実数であることと \(z_1,\,z_2,\,z_3,\,z_4\) が共円であることは同値である。これを証明せよ。