矛盾(むじゅん)

矛盾(むじゅん)ということばは、中国の古典『韓非子』に出てくる「矛と盾」の故事に由来しています。

昔、楚(そ)の国に矛(ほこ)と盾(たて)を売る男がいました。
男は、矛を指して、「この矛はとてもよい矛で、どんな盾も突き通すことができる」と言い、次に盾を指して、「この盾はとても優れた盾で、どんな矛も防ぐことができる」と言いました。
それを聞いていたひとりの客が、「その矛でその盾を突いたらどうなるのか」と問うたところ、男はしばらく黙って考えていましたが、とうとう返答ができなくなってしまったということです。

もし矛が盾を突き通せたならば、「どんな矛も防ぐ盾だ」と言ったことが誤りになりますが、また、もし矛が盾を突き通せなければ、「どんな盾も突き通す矛」と言ったことが誤りになります。したがって、どちらにしても、男の説明は辻褄が合わないことになります。結局、「どんな矛も防ぐことのできる盾」と「どんな盾でも突き通す矛」はこの世界に同時に存在することはできないのです。

このことから、物事の道理、つじつまが合わないことを「矛盾」というようになりました。

数学や論理学では、2つの命題P, Qがあって、PとQが同時に成り立つことができないとき、命題PとQは互いに矛盾するといいます。このことはPとQから作った新しい命題「PかつQ」が偽である(正しくない)といっても同じです。矛盾することを両立しないともいいます。数学では、矛盾を利用した議論がよく行われます。たとえば、ルート2(√2)が無理数であることを証明するために、ルート2が有理数であったと仮定してそこから矛盾を導きます。矛盾を導くという場合の「矛盾」とは「Pであり、かつPでない」という形の命題ならば何でもかまいません。数学で矛盾を導く際、「0=1」という式を導くこともよく行われます。数学では、考えている数の体系によって「2=0」、あるいは「3=0」などとなることはあっても、「0=1」が真になることは絶対にありません。「0=1」は絶対的に偽の命題だということができるでしょう。