二角形はあるの?

 ある家庭でのこと。
 年長になる幼児が、「三角形はあるけど、二角形はないの?」と言ったので、今度くにたち数学クラブに行ったら聞いてみましょうという話になったという。

 はたして「二角形」はあるのか、ないのか。そんなことは現在、どこの本を探しても書かれていないけれど、実は、紀元前300年当時、数学者ユークリッドが著した『原論』という書物には、幾何学の基礎をなす公理のひとつとして「二角形は面積を囲まない」という命題が書かれているという(第 I 巻の公理 9)。
 ユークリッドは、図形に関するすべての性質を論理的に証明していくためにどうしても必要な前提としてこのような二角形の特性に着目したのだった。

 ふとしたときに子どもの口から発せられる疑問や呟き。そうしたものの中には、古代から現代まで連綿として続く数学の営みにも通じるものが往々にしてあるような気がする。

 心に浮かんだ疑問やこだわり。そうしたものを大切に温め、深めていくか、それとも一笑に付して忘れてしまうか。大数学者と日常を生きるだけの平凡な人生との違いは、案外そんなところにあるのかもしれない。

 これからも、わたしたち大人には想像もつかない幼児のすばらしい潜在的能力に注目していきたい。