エレガントな解答をもとむ 名作セレクション2000~2020

このたび、日本評論社から『エレガントな解答をもとむ 名作セレクション2000~2020』が発刊されました。これは、日本評論社の月刊雑誌『数学セミナー』に毎号2題ずつ出題されている問題の中から32題の名作を選び出し、1冊の本にしたものですが、その中に、2016年9月号にわたしが出題した問題も載っています。

その問題というのは、三角形の Kiepert 双曲線に関する問題です。

実は、その年の4月23日、渡辺信先生が主宰し毎月開催している数学教育談話会が秋葉原の会議室を借りて行われました。そのとき、一松信先生が来られて、「三角形の”心”について」という講演をされ、その中で三角形の3つの頂点と重心の合計4つの点を通る直角双曲線である Kiepert 双曲線についても触れられたのです。

わたしは Kiepert 双曲線のことが何となく奇妙で印象に残ったため、しばらくコンピューターを使って作図したりして楽しんでいました。双曲線はご存じのとおり、2つの枝をもつ曲線です。わたしは当初、三角形の3つの頂点と重心の合計4つの点が2つの枝の上に乗っているようすを頭の中で想像することができず、適当に、まさに適当に、それらの4つの点のうち2つが一方の枝に、残りの2つがもう一方の枝に乗っているのではないかと、根拠もなく考えていたのでした。しかし、コンピューターが描いた図を見ると、Kiepert 双曲線は、何と、2つの頂点と重心を通る枝と、残りの1つの頂点を通る枝とに分かれていたのです。その図をみて、自分の予想が甘かったことを思い知ると同時に、いよいよこれは不思議な曲線であるなぁと思った次第です。

大方の皆さんがご存じのように、直角双曲線が双曲線全体の中で占める位置は、楕円全体の中で円が占める位置と共通するものがあります。つまり、円は楕円の一種であり、楕円の中でもっとも整ったものが円であるということができ、同じことが直角双曲線についてもいえるのです。

さて、任意の三角形の3つの頂点を通る円はいつでもただ1つあり、それが外接円です。それに対して、任意の三角形の3つの頂点を通る直角双曲線は一般には無数にあり、重心を通るという条件を付け加えることで1つに決まるようです。円も直角双曲線も同じ2次曲線の仲間であることを想起すると、これは奇妙なことであるといわなければなりません。

また、さらに調べていくと、そもそも三角形の中には Kiepert 双曲線が無数にあるもの、1つもないもの、ただ一つあるものがあることもわかってきました。

そんなとき、たまたま数学セミナーの編集部から「エレガントな解答をもとむ」の欄への出題のお誘いがあり、数学セミナーからの依頼を一度も断ったことがないわたしとしては、出題することにしたのでした。そこで、この機会に Kiepert 双曲線についてもう少し徹底して知りたいとも思っていたので、ちょうどよい機会だと思いました。

出題してみてわかったことは、雑誌『数学セミナー』の読者層はとても優秀な人たちであるということです。これは毎回、出題するたびに思い知らされます。「エレガントな解答をもとむ」というコーナーの名前がすぐれているせいなのか、よくわかりませんが、いつも創意工夫と創造性にあふれたすばらしい解答が何種類も寄せられます。とくにこのような幾何学の問題のときには、解答に使われる道具立ての多様性に驚かされます。

もし、このブログを読んで Kiepert 双曲線のことについてもう少し知りたいと思った方は、本書を買って読んでみてください。