数学の楽しみ方

数学は、とても奥深い学問で、いろいろな楽しみ方があることはいうまでもありません。

ちょっとまわりを見まわしただけでも、難しい問題を解くのが好きな人もいます。
そういう人に聞くと、数学の問題が解けたときの爽快感は格別なもので、
それこそが数学の醍醐味だというようなことを異口同音のようにおっしゃいます。

その一方で、最先端の数学ではどんなことが研究されているのか、数学者の皆さんはどんなところで苦心惨憺していらっしゃるのかといった話を聞いて、
その話の片端でも理解出来たら嬉しいという人もいます。
最近はそのような人向けのTV番組も多くなってきているように感じます。
1995年にイギリスのアンドリュー・ワイルズがフェルマー予想(360年前にフェルマーが予想した問題)を解いたことが、大きなニュースとなりましたが、
このブレークスルーが、一般の人たちの数学へのイメージが転換するきっかけだったかもしれません。

また、古代ギリシャや中世ヨーロッパ、あるいは日本の江戸時代の数学者の伝記を読むのが好きという人もいます。
その時代がどんな時代だったのか、研究の業績だけでなく、時代背景も含めて理解したいというのは高度な知的楽しみでしょう。

数学の楽しみ方には、まだまだいろいろな流儀があります。

1991年に時田節さんが翻訳した「Mathematica 計算の愉しみ」という本(原著者はヴァルディ)には、そのタイトルの通り、
コンピューターを使って数学のいろいろな分野にある問題を巧みに計算してみる楽しみ方がたくさん載っています。
数学で解決済みの問題であっても、現代の計算機で計算してみると新しい発見や問題の発展があるのです。

わたしが提案したいもうひとつの楽しみ方は、誰でも知っている、あるいは直観的にはまったくあきらかに思える事実の証明を考えることです。
これはかなり難しい問題ですが、できたときの知的感動も大きいのです。

たとえば、三角形の2つの辺の長さの和は、他の1つの辺の長さよりも長いという定理があります。この定理について、明治の文豪菊池寛は学校の数学で習ったがとても難しかった。でも、こんなことは犬でも知っていると日記(?)も書いているそうです。たしかに、この定理は犬でも知っているほど直観的には明らかで、かつ、わたしたちが知っている平面というものの本質にかかわる基本的な性質です。しかし、そうであるにも関わらず、では証明せよと言われたら、いったいどのようにして証明すればよいのかまったく糸口さえも掴めず、雲をつかむような気持ちにさせられます。何かを証明するには、その手段を考えなければなりませんが、三角形に関するこの定理の証明には、いったいどのような手立てを使えばよいのか、見当がつかないのです。逆に、この事実を使って証明せよのようなヒントが与えられれば、何とか証明できるでしょう。

実は、この定理は座標を使えば、文字式の計算に持ち込むことができ、不等式の証明問題に言い換えられます。デカルトのおかげで、すべての幾何の問題は計算で解けるというのが、解析幾何学の思想です。

しかし、それでは面白くないでしょう。ごりごり計算してやっと証明できたとしても、あまりエレガントではないかもしれません。

ユークリッドの原論の最初の部分にこのことが証明されています。

初等幾何学には、他にも似たようなことがたくさんあるようです。
たとえば、三角形ABCの頂点Aから辺BCの中点Mまでの距離は、ABとACの平均よりも長いでしょうか、それとも短いでしょうか。

いくつかの三角形を描いて測ってみると、AMの長さの方がABとACの平均よりも必ず短くなっていることに気付きます。
では、証明は?

考えてみてください。